よく、「へえ、落語かあ。聴いてみたいんだけど、何処で聴けるか分からないんだよねえ…」と言われる事があります。
そこで、完全初心者の方向けに落語の入り口を書いてみよう!と思い至りました。
私は東京の噺家なので東京近郊の落語事情に留まってしまいますが、わかる範囲で書いていきたいと思います。



まず、落語は何処で聴けるのか?

大きく分けると「寄席(演芸場)」、「ホール落語」、「地域寄席」の三通りあります。

寄席(よせ)
都内にある「寄席(演芸場)」は、いわゆる定席(じょうせき)と呼ばれる新宿末廣亭上野鈴本演芸場浅草演芸ホール池袋演芸場の四つの寄席の他、国立演芸場お江戸両国亭お江戸日本橋亭お江戸上野広小路亭などがあります。
それぞれ出演する芸人の所属団体が異なるので、御目当ての芸人が出演するかは、演芸場などのホームページや『東京かわら版』などで確認して下さい。また、番組の変更もよくあるので、落語家の所属団体やお目当ての芸人の公式サイトやTwitterなどのSNSをチェックされる事をお薦め致します。
東京の寄席では、落語家以外の芸種を「色物」と呼びます。漫才、奇術、紙切り、太神楽、曲独楽、三味線漫談、俗曲などなど、様々な色物が出演するのも、寄席の楽しみです。
寄席の特徴としては、「多種多様な芸人が出演する」、「一人あたりの持ち時間は10〜15分程度」、「寄席ならではの楽しみ方が出来る(場所によっては飲食可能など)」といったところ。
特にお目当ての芸人がいない場合は、テレビ番組を楽しむ感覚で寄席にいらっしゃる事をお薦めします。好みの芸人が見つかるかも知れませんよ!

ホール落語
「ホール落語」というのは、市民ホール(区民ホール)や文化センターなどのホールで行われる興行の事で、独演会や二人会、三人会などが行われる事が多いです(お正月などは寄席形式で大勢の芸人が出演する事も)。
ホール落語の特徴としては、「一人あたりの持ち時間が比較的長めなので、じっくりと好きな芸人を楽しめる」、「飲食不可」といったところ。
もし、お好きな芸人がいるならば、その方の出演するホール落語(特に独演会)をお薦めします。

地域寄席
「地域寄席」というのは非常にザックリとした言い方ですが、公民館の集会所や神社仏閣、飲食店などで行われる比較的小規模な興行です。
客席のキャパシティも数名〜100人程度なので、芸人との距離も近く、独特の熱気があります。
基本的には独演会か二人会、三人会といった感じ(神社仏閣の場合はところによりホール落語並に大規模になる事も)。
地域寄席の特徴としては「芸人が比較的近くで楽しめる」、「飲食店で行われる場合は食べ物も楽しみ」といったところ。

東京や大阪、名古屋以外の地方の場合、基本的には「ホール落語」か「地域寄席」となると思います。
「お住まいの地域+落語」などで検索すると、意外と近くで行われている落語会がヒットするかと思います!



どういう服装で行けばいいか?ドレスコードはあるか?

こういう質問もよくあるのですが、ハッキリ言ってドレスコードはありません!
映画館に行くのと同じです。
普段着でお気軽にお越しください。



事前に勉強しておく事はあるか?

この質問も非常に多いのですが、落語は本と同じで知識や人生経験によって感じ方が変わります。知らない単語や聴き慣れない江戸弁に戸惑う事もあるかも知れません。
しかし、根多出しの会以外はどの根多が掛かるか、当日のお楽しみとなっている為、事前の予習はほぼ不可能です。
どうしても不安だ!という方は、古典落語のあらすじが書いてある本やサイトを参照されるのもいいかも知れませんし、江戸時代や明治、大正くらいの風俗、習慣について勉強されると古典落語がより身近に感じられるかも知れません。
ただし、落語には「噺のウソ」もありますので、歴史考証などをするよりも、気軽な気持ちで素直に楽しむのが一番かと思います。



落語にはどういう種類があるの?

京大阪の「上方落語」と東京の「江戸落語」に大別されます。移植された根多も多く、例えば上方の『時うどん』が江戸に移植されて『時そば』になったり、江戸の『酢豆腐』が上方に移植されて『ちりとてちん』になったりしております。

落語を細分化すると、笑える「滑稽噺」、色っぽい「破礼噺(バレばなし)」、幽霊やお化けの出てくる「怪談噺」、感動的な「人情噺」といった分類もあります。

よく言われる「古典落語」と「新作落語(創作落語)」という分類がありますが、実は古典落語と新作落語に明確な定義はありません。
人によって見解は様々です。どれが正しいという事では無く、素直に楽しむのが個人的には一番かと思います。



噺家と落語家ってどう違うの?

同じものです笑
元々は「噺家」だったのですが、時代と共に「落語家」という呼び方が一般的になりました。



知っておくと便利な専門用語

前座:落語家に入門すると前座となる。楽屋仕事が主な業務。着物は着流し。

二ツ目:数年の前座修行を経て、二ツ目に昇進すると、紋付、羽織、袴の着用が許される。また、自分の手拭いを染める事が出来る。寄席の出番は基本的に前座の後。

真打:一門を興す事が出来る(弟子が取れる様になる)為、「師匠」という敬称で呼ばれる。寄席でトリを務める事が出来る様になる。

仲入り:休憩の事。また、休憩の前の出番の事も「仲入り」と呼ぶ。出番の方は休憩と区別する為、「仲トリ」と呼ぶ事も。

食い付き:仲入り後の出番の事。

ヒザ:トリの前の出番の事。色物が務める事がほとんど。

トリ:最後の出番。主任とも言う。

てけつ:チケット売り場や受付の事。「チケット」が訛ったもの。

木戸銭:入場料の事。

色物:東京では落語以外の芸種の事。

独演会:一人の落語家の落語会。前座や色物が出演する事も。

二人会:二人の落語家の落語会。前座や色物が出演する事も。

根多:ネタ。

根多卸し:初演の事。

勉強会:根多卸しやしばらく掛けていなかった根多などをお客様の前で勉強させて戴くつもりの会。お客様が勉強する会ではありません。

演目:落語のタイトル。

根多出し:あらかじめ、どの演目を掛けるのか告知をする事。

メクリ:芸人の名前が書いてある大きな紙。演目は通常、書かない。

襲名:名跡を継ぐ事。

披露興行:昇進や襲名時に行う特別興行。

四派:東京の落語家はそれぞれ所属している団体があり、落語協会落語芸術協会落語立川流五代目圓楽一門会を四派と呼ぶ事がある。ちなみに上方を加えると「五派」になります。



是非、実際に高座を観て、楽しい落語ライフを!

※2022年4月20日、加筆修正。